【専門家監修】犬の社会化不足を解消!成犬もできる6つのトレーニング
- 学び
前回は子犬の社会化期や社会化不足で考えられる問題行動など、「犬の「社会化」と「社会化期」について正しく学ぼう」という基本の部分を見ていきました。今回は、その実践編。「犬の社会化トレーニングって、どんなことをすれば良いの?」という方向けに、子犬はもちろん社会化不足が心配な成犬にもおすすめの「社会化トレーニング実践方法」をご紹介していきます。
目次
社会化不足を解消!子犬も成犬もしたいトレーニングの実践方法
犬の「社会化期」とは、おおよそ「生後3、4週間~生後12、13、14週間」とされています。しかしながら前回もお話ししたとおり、子犬も成犬も、社会化不足のトレーニング方法はほとんど変わりません。そして社会化トレーニングの基本は、「少しずつ体験し、うれしい・楽しい経験に感じてもらう」です。
トレーニングを通し体験してほしいものは、以下の「6つ」。
- 「音」に対するトレーニング
- 「人」に対するトレーニング
- 「モノ」に対するトレーニング
- 「他の犬」に対するトレーニング
- 「体験」に対するトレーニング
- 「体に触れられる」ことに対するトレーニング
ちなみに、この時期の子犬に教える「ハウス」や「トイレ」といった、しつけとしてのトレーニングは当記事では別のものとしています。社会化はあくまで、人間社会での暮らしを犬に受け入れてもらうためのもの。家でのルール(ハウスはここ、トイレはここ)として覚えてもらいたいトレーニングについては、別途ご紹介したいと思います。
①「音」に対するトレーニング
犬は聴覚が発達していることから、音にはとても敏感です。そのため、音の社会化トレーニンでは人間との生活で鳴る、さまざまな音を体験してもらいます。
▼社会化トレーニングで体験したい「音」
- 家の中で鳴る音(シャワー、ドライヤー、掃除機、洗濯機、ポット、チャイムなど)
- 散歩中に鳴る音(トラックの音、車のクラクション、踏切、自転車のベルなど)
- 環境音、特別な音(雷、花火、救急車のサイレンなど)
これらの音を、まずは「小さいボリューム」で聞いてもらいます。家の中や散歩中に聞く音であれば、「遠くから聞く→徐々に近づく」という動作で、音のボリュームを調整。その際、音が鳴っていても落ち着いていられたら、ごほうびをあげましょう。音を大きくしても、過剰に反応しないレベルまで根気強く続けていきます。
また、雷や花火といった特別な音は、動画を活用してのトレーニングもおすすめです。犬が聞こえるか、聞こえないかぐらいの音までボリュームを落とし、犬がかすかに聞こえていても落ち着いていれば、そのまま聞き流させて、ご褒美を与えながら音に対して強化していく方法もあります。このとき、怖がっている様子やほえる、威嚇するといった様子が見られたらボリュームを下げる、それを繰り返していくことで、少しずつ音のボリュームを上げていきます。
②「人」に対するトレーニング
たとえば、社会化期に女性の飼い主としか触れ合わなかった子犬は、女性以外の人に会うとおびえたり、攻撃的になったりする例があります。そのため、さまざまな「人」に会ってもらうことも、大切な社会化のひとつです。
▼社会化トレーニングで接したい「人」
- 性別の違う人(男性、女性)
- 年齢の違う人(若い人、お年寄りの人、子ども、赤ちゃん)
- 服装や格好が違う人(帽子やヘルメットをかぶった人、サングラスをかけた人、マスクをした人)
- 動きが違う人(自転車やバイクに乗る人、走っている・ランニングをしている人)
- 今後お世話になる人(かかりつけの獣医師や看護師、トリミングサロンのトリマー)
可能であれば、会った人におやつをあげてもらうといったトレーニングがおすすめです。このとき、まずは一人ずつ、短い時間で接してもらい、怖がったり興奮するようであれば離れてもらいましょう。
③「モノ」に対するトレーニング
人間社会にある「モノ」に、触れておくことも大切です。特に「これから使うもの」「日頃使うもの」は、優先的に社会化トレーニングしてもらうようにしましょう。
▼社会化したい「モノ」
- ケージ(ハウス)
- クレート(キャリーケース)
- 首輪、リード
- 服、カッパ、靴(靴下)
- トイレシート
- ブラッシングのブラシ、歯ブラシ
将来使うものには少しずつ触れてもらい、使う(装着または入る)時間を徐々に延ばします。このとき少しでも接触ができたら褒めるのはもちろん、自発的に触れたり、入ったりしたときは、さらに大げさに褒める(ごほうびをあげる)ようにしましょう。
④「他の犬」に対するトレーニング
▼社会化トレーニングで会いたい「犬」
- 大型犬、中型犬、小型犬
- オス、メス
- お年寄り、子犬(パピー)、若い犬
子犬の社会化期では、ワクチンが完全に終わってない時期であり散歩はできないものの、だからといって家でずっと過ごすのはおすすめしません。
飼い主が抱っこして外へ出たり、ドッグカートに乗せることで、子犬の時期でも外の世界に触れることは可能です。外の世界には、社会化してほしいものがたくさんあります。ぜひ、天気の良い日などに積極的に外へ出てみてはいかがでしょうか。やはり外は不安という方は、パピー教室や幼稚園を活用するのもおすすめです。(ただし、犬の性格によっては複数の犬といきなり接触させてしまうと苦手意識を持つ子もいます。飼い主が愛犬の性格をしっかりと見極め参加するようにしましょう。)
参考リンク 犬の幼稚園ってどんなところ?
成犬の場合は、ドッグランをうまく活用することができそうであれば、行ってみるのもいいでしょう。まずはドッグランを遠くから眺める程度にし、徐々に近づきます。近づけたら、「ほめる」または「ごほうびをあげる」を繰り返し、もし興奮したり、おびえた様子が見られたら、離れてまた最初から始めます。ただしドッグランは危険もあったり、犬にとって嫌な経験をしてしまうと逆効果になってしまうこともあります。愛犬の様子をしっかりと観察し、周りの犬も確認しながら十分に気をつけて活用しましょう。
⑤「体験」に対するトレーニング
体験とは、たとえば「お風呂に入ること(お湯に触れること)」「ドライヤーで乾かしてもらうこと」「車に乗ること」「ハウスやクレートに入ること」です。こちらも、他の社会化トレーニングと同様に、少しずつ体験してもらうようにしましょう。「お風呂」であれば、少しずつお湯に触れる。(お湯の温度は「37℃~38℃」くらいがベスト)
犬の中にはお風呂場の雰囲気(湿度が高く、音が響く感覚)に対し警戒する子も多いので、まずはお風呂場に入ることから始めても良いでしょう。ちなみに子犬の社会化期では、ワクチンが終わっていない状態のため、足先や顔をぬらす程度でトレーニングを行います。
そしてドライヤーも、まずは短時間から。「音を鳴らさない状態でドライヤーを床に置いておく→離れて音だけを聞く→温風を遠くから感じてもらう」という流れで、社会化してもらいましょう。もちろん、少しでもできたらほめること、ごほうびをあげることも忘れずに。
⑥「体に触れられる」ことに対するトレーニング
体のどこを触れても犬が嫌がらないというのは、とても助かることです。歯磨き、動物病院での診察、サロンでのトリミング、寝たきりや病気の際の介護。そのためにも、少しずつ「触れる」という社会化トレーニングを行っていましょう。
▼社会化トレーニングを特に行いたい「体の場所」
- 口周り
- 口の中(歯)
- 耳(耳の中)
- おなか
- 足先
- おしり
- しっぽ
上で挙げた場所は、犬が嫌がりやすい場所です。トレーニングの方法は同じ、「少しずつ触れていく」だけです。まず触って、大人しくしていたらごほうびをあげて、時間を徐々に延ばしていきましょう。この社会化トレーニングは、スキンシップや遊びの中でできるものですので、犬と楽しんでトレーニングしていけると良いですね。
さいごに
「少しずつ体験していく」が犬の社会化トレーニングの基本です。
意外と単純で簡単だと思った方も、多いかもしれません。ただし忘れてならないのが、初めてのものにも積極的に向かっていく社会化期の子犬と違い、性格が臆病な子や社会化不足のまま成犬になった子は、初めてのことに「強い恐怖」を覚えやすいということです。トレーニングがストレスにならないよう、飼い主は愛犬のペースを見極めて行っていきましょう。
ここでもうひとつ注意したいのが、飼い主が社会化トレーニングの際に「どういった姿勢で臨んでいるか」です。間違ったトレーニングや対応によって、犬の社会化がさらに遅くなってしまうのは困りますよね。次の社会化シリーズの記事は「社会化トレーニングがうまくいかない」です。愛犬の社会化が遅いという悩みをお持ちの方の参考になれば幸いです。
- Writer:かい わかこ
渡辺 ゆずる|『WanHouse』代表・ドッグトレーナー
神奈川県横浜市を拠点に、出張型ドッグトレーニング『Peace&Hope』を代表として運営。その後2023年に茅ヶ崎市に移転し、ドッグサロン『WanHouse』をオープン。トレーニング・トリミング・フォト・各種イベントやセミナーなど、内容が充実したサロンです。
また犬の歯磨きのスペシャリストでもあり、『ドッグデンタルケア.トレーニングソサエティ』の発足メンバー。各地で勉強会を開き歯磨きのやり方やノウハウを指導。INUMAGでは、ドッグトレーナーとしての記事の監修や、歯磨きの指導者として歯磨きコンテンツを担当。