【ドッグトレーナー監修】犬の「社会化」と「社会化期」について正しく学ぼう
- 学び
人間と犬。違う生き物である私たちが、一緒に暮らすために知っておきたいこと、そのひとつが「犬の社会化」です。社会化は、子犬の頃にしかできないと思われがちですが、それは大きな間違い。そもそも社会化というものは、犬がする/しないの話ではありません。
社会化とは、人間との生活で出会うものに対し、飼い主がいかに愛犬に「良い体験」を通し、経験をさせてあげられるか。そして、犬の防衛本能からくる自己防衛、たとえば「吠える、噛みつく、飛び掛かる」などの問題行動を愛犬がしなくてもすむ毎日にしてあげられるか。つまるところ、犬の社会化は、飼い主がそれを「するか/しないか」という話なのです。
これは、多くの方が勘違いしやすい部分でもあります。飼い主が「する」という選択をし、愛犬が社会性を身に付けられるトレーニングをすることによって、はじめて社会化ができる。犬の社会化の軸となる考え方なのでぜひ覚えてくださいね。
ということで、犬の社会化は、成犬になっても問題なく行えます。子犬の社会化期を逃したからできない、というものではそもそもありません。ここでは、あらためて「犬の社会化」とはどういったものなのか、子犬を迎えたばかりの方、迎える予定の方に知っておいていただきたい「社会化期」の大切さ、そして社会化不足の場合に考えられる問題行動など、社会化の基本についてご紹介したいと思います。
目次
犬の「社会化」とは?子犬だけのわずかな時期「社会化期」
犬の「社会化」とは、特定の社会(犬社会や人間社会など)での生き方を受け入れ、ストレスなく過ごせる状態を言います。
飼い主目線で見ると、人間社会で出会うもの(たとえば、お風呂に入ること、ドライヤーで乾かされること、配達の人が来ることなど)をストレスなく受け入れてくれ、お互い心地よい毎日を過ごせている状態です。
犬の気持ちに立って、想像してみましょう。犬は生まれて人間のもとへ来た時、知らないものに囲まれます。
- うなり声をあげながら、熱い風を出すもの(ドライヤー)。
- ものすごい速さで隣を通り過ぎ、時々高く響く声を出す動くもの(車)。
- 音を合図に、定期的に自分の縄張りに来る人間(配達員)。
もちろん犬には、それらの存在が理解できません。そういったものに対し、犬は本能から自己防衛を働かせます。吠えたり、噛みついたり、飛びかかったり…それこそが飼い主を悩ませる「問題行動」です。社会化は飼い主の手で、愛犬の理解できない存在や物事を、良い体験に変えてあげること。
そうすることで、犬は未知のものに出会っても、常に自己防衛(問題行動)を起こす必要がなくなります。それはまさに、犬も人もお互いに心地よく、ストレスのない理想の日々と言えるでしょう。
社会化を身につけるとどうなる?
社会化によって、人間社会で問題となる、吠えや噛むなどの自己防衛(問題行動)を減らすことができます。これは、さまざまなシーンで、ストレスを感じずに過ごしてもらえやすい、とも言えるでしょう。たとえば、このようなシーンを想像してみてください。
- お散歩中に別の犬と会っても、落ち着いて交流できる。
- ドッグカフェやペットホテル、旅行先のホテルでくつろいでいられる。ストレスを感じず過ごせる。
- 動物病院やトリミングサロンで、落ち着いて診察やトリミングを受けられる。
犬がストレスを感じることは、飼い主としても極力避けたいもの。けれどもこのような「しょうがない」というシーンも、一緒に暮らしていく中では出てきます。そんな時、犬の社会化トレーニング、つまり飼い主が犬の自己防衛に対し、その都度、良い体験に変えてあげることで、犬がストレスを感じて過ごす必要も、飼い主が遠慮する必要もなくなります。
社会化に最適!子犬だけの「社会化期」
犬の「社会化期」とは、犬種や個体差はあるものの、おおよそ「生後3、4週間~生後12、13、14週間」の子犬に見られる一定の期間を言います。この時期は、恐怖心や警戒心よりも興味や好奇心が勝り、順応しやすい傾向にあること。またこの頃に経験したことは、その後も長期に渡って順応し続けることから、社会化に最も良い時期とされています。
ただし2021年6月より、日本では「8週齢規制」が施行され、飼い主が社会化期にトレーニングを行える時間はさらに短くなりました。「8週齢規制」とは、生後56日(生後約2カ月)以下の子犬・子猫を母犬(母猫)から離してはならないというもの。
つまり私たちは、この頃の子犬や子猫を家に迎えることができないのです。そのため、私たちが社会化期にトレーニングができる期間は、おおよそ「1カ月ほど」ということになります。
犬の社会化不足で考えられる「問題行動」
犬はまず、2つの社会に順応する必要があります。それは「①犬の社会」と「②人間の社会」です。それぞれの必要性と併せて、社会化不足の場合どのような問題行動が考えられるか、しっかり知っておきましょう。
①「犬社会」の社会化不足
犬は生まれて私たちの家に迎えられるまでに、まず母犬や兄弟から「犬の社会」について学びます。たとえば、「噛む強さ」「犬同士のコミュニケーション方法」です。子犬は、母犬に甘えたいときや兄弟に構ってほしい際に、甘噛みをします。
甘噛みといっても、思い切り強く噛めば、母犬や兄弟から叱られるでしょう。このとき子犬は初めて、「噛む加減」を覚えます。また犬同士のあいさつの仕方、遊ぶときの合図、接し方といった犬同士のコミュニケーション方法についても、母犬や兄弟から学ぶことができます。
すでにお話した「8週齢規制」は、この犬社会に対する社会化不足とその必要性を考慮して施行されました。早く母犬と引き離すことで、かみ癖が治らない、攻撃的、犬に会うと興奮し過ぎる・ほえる、過度におびえる、さらには虚弱体質だったりごはんを食べないといった問題行動が報告されています。
かわいい子犬をいち早く迎えたいという気持ちもわかりますが、ここはぐっと我慢。犬同士による社会化トレーニングの必要性をしっかりと理解し待つことも、飼い主のつとめと言えるでしょう。
②「人間社会」の社会化不足
人間社会における社会化不足の場合、犬は人間との生活で「初めてのもの」「慣れないこと」に大きなストレスを感じます。攻撃的になったり、警戒したり、恐怖を感じたり、おびえたりといった反応を示し、それは時に人間から見ると「問題行動」と呼ばれることも多くあります。
▼人間社会の社会化不足で考えられる「問題行動」の例
- 飼い主以外の人(配達員や親せきなど)に噛みつこうとする、攻撃的になる。
- 救急車のサイレンに吠え続ける。それにより近所迷惑だと、隣家から言われる。
- 雷や花火におびえ、家から逃走する。
- 他の犬に会うと過剰に興奮し吠え続ける。ドッグランやドッグカフェを落ち着いて利用できない。
- トリミングサロンに預けたら、トリマーさんに噛みつき、以後利用を断られる。
- 散歩中に自転車や車など動くものに反応し、突然引っ張られる。
「社会化期を逃した成犬は社会化できない」という間違い
「成犬になると社会化は諦めるしかない。」「社会化期を逃したら、もう社会化はできない。」
そう考える飼い主は多いようですが、社会化期とはあくまで「順応が早い」と言われる時期。社会化期に限らず、犬の社会化はいつでもやり直しができます。社会化不足の原因は、それができる環境になっていないことや、社会化への知識が足りないこと。どんな環境でも犬たちが快適に過ごせるよう、私たちが手助けをして整えることが大切です。
そのため、子犬の社会化期にやるトレーニングも、社会化不足を治したい成犬のトレーニングも、やることはほとんど変わりません。ただし、成犬の社会化は子犬の社会化期に比べて時間がかかるので根気よくトレーニングする必要があります。
さらに成犬を飼っている方は、社会化不足による問題行動に対し悩みを持っている方も多いと思います。しかし、一見問題行動に見える行為も、実は「何か理由があって」行っているケースもあるので、飼い主はよく注意して観察をしましょう。
たとえば、「うなる」という行為。
飼い主に対してうなる場合、社会化不足に一見みえますが、もしかしたら「痛み」のサインかもしれません。傷や痛みをかばう際に犬は、触ってほしくないと「うなり」ます。もしそうであれば、問題行動の一番の解決方法は、まず病院へ行くことでしょう。
問題行動の中にはこういった理由のあるもの、他にも犬種特有の問題行動や犬の本能からくる問題行動といったものがあります。
犬のウェブマガジンINUMAGでは、愛犬のためのトレーニング方法をトレーナー監修のもと順次公開していく予定でいますので、お悩みに関する記事についても、ご期待ください。
さいごに
犬の社会化は、私たち人間と犬がお互い心地よく暮らすためには、欠かせないものです。社会化に最適な時期は子犬の「社会化期」と言われ、現在は約「1カ月」ほど。とても短い期間のため、これから子犬を迎えるという方はぜひ迎えたその日から、遊びやスキンシップを通してできる社会化トレーニングを始めてください。そして最も覚えておきたいことは、社会化期が過ぎた成犬でも、社会化は可能だということ。
成犬で社会化不足を感じる子も、今からトレーニングを始めることは決して無駄ではありません。ただし、間違ったトレーニング方法は、より社会化を遅らせる原因となりえます。そこで知っておきたいのが、社会化トレーニングのポイントです。
焦らず、粘り強く繰り返していけば、きっと愛犬はあなたに応えてくれます。今から「愛犬に社会化トレーニング」始めてみませんか。
INUMAGではすべての犬と飼い主がより幸せな暮らしを送れるよう、記事を通してみなさまのサポートをし続けてまいりたいと思います。次は社会化不足をどう解消していくかという記事を予定しています。配信までお待ちください。
- Writer:かい わかこ
渡辺 ゆずる|『WanHouse』代表・ドッグトレーナー
神奈川県横浜市を拠点に、出張型ドッグトレーニング『Peace&Hope』を代表として運営。その後2023年に茅ヶ崎市に移転し、ドッグサロン『WanHouse』をオープン。トレーニング・トリミング・フォト・各種イベントやセミナーなど、内容が充実したサロンです。
また犬の歯磨きのスペシャリストでもあり、『ドッグデンタルケア.トレーニングソサエティ』の発足メンバー。各地で勉強会を開き歯磨きのやり方やノウハウを指導。INUMAGでは、ドッグトレーナーとしての記事の監修や、歯磨きの指導者として歯磨きコンテンツを担当。