「犬も人も同じ地球で暮らす動物」保護犬を迎え入れて犬と共に生きる

「犬も人も同じ地球で暮らす動物」保護犬を迎え入れて犬と共に生きる

  • インタビュー

INUMAGのインタビュー企画、愛犬と人とが共に生きる日常を取材する「犬と暮らす」シリーズ。今回ご登場いただくのは、保護犬のビビちゃん(推定11歳・女の子)とノアくん(4歳・男の子)、3人の息子さんと共に鎌倉郊外にお住まいの麻世(アサヨ)さん(41歳)&雄司(ユウジ)さん(40歳)ファミリーです。子どもの頃から愛犬のいる環境で育ってきたお二人が、保護犬2匹のワンちゃんたちとどのようにして出会い、どのように接しながら毎日の生活を送っているのでしょうか。現在の2匹と5人の7人家族の日常や、保護犬や犬への想いなどをお二人にお伺いしました。

結婚イコール“夫婦プラス犬のいる生活”の始まり

徳島県の郊外のご実家で、幼い頃からご両親やご近所の方が保護した犬や猫などの動物たちに囲まれて育ってきた麻世さん。結婚するにあたって、“犬と一緒に暮らす”ことは譲れない条件だったといいます。

「主人も実家で犬を飼っていましたし、お互いの家を行き来していく中で犬への愛情がある人だというのは自然と感じ取れたんですよね。犬が苦手な人だったら結婚してないんじゃないかな」と、当時のことを笑顔であっけらかんと話してくれる麻世さん。一方の雄司さんは「自分に比べて妻の家族は犬との距離が近くて、犬はもちろん動物への愛が強いと感じました」。犬愛の強い麻世さんと比較をすれば少し控えめにも見える雄司さんですが、熱量は違っても犬との暮らしは2人にとっては自然なことに変わりはありません。

新居となる住まいも、犬がのびのびと過ごせるような庭付き一戸建てを念頭に置いて探すことに。そして2011年、海からも山からも程よい距離にある、緑豊かな鎌倉の地に中古の家を購入。自分たちで内装などのリフォームに取り組む最中、「我慢できなくなって(笑)」と麻世さん。引っ越して2カ月、当初考えていたよりも早い段階で1匹目となる保護犬ビビとの出会いがやって来ます。

保護犬ビビとの出会いは初めて参加した里親会

幼い頃から実家で雑種犬に囲まれて育ってきたからか、犬を飼うなら保護犬を迎え入れるということが自然の選択肢だった麻世さん。

結婚後に保護犬を迎え入れることは心に決めていたので、以前からインターネットで保護犬のサイトなどをチェックしていたのだそう。まずは試しに…と辻堂海浜公園で開催される里親会に参加。20匹ほどの犬たちの中で、まるで隠れるかのようにほかの犬の影で怯えている犬が気になります。ビクビク震えて触るのもままならないその犬を雄司さんが思い切って抱きしめてあげると、腕の中にすっぽりおさまって安心したように落ち着いたのだとか。それを見て「この子を引き取りたい」と直感で思った麻世さん。また雄司さんも「抱っこしたときに肌感として懐いてくれているように感じて『わが子にしたい』って思いました。誰でもいいわけじゃなくで、犬の方から自分たちを選んでくれているような気持ちにもなりました」。

ところがほかにも希望する家族がいたために、受け入れられるかどうかは後日連絡がくることに。「縁があればうちに来るはず」「どこに決まったとしても、もらわれた先の家がその犬にとって幸せな場所のはず」…。いろんな気持ちがうずまき長く感じられた1週間を経て、保護犬ビビが麻世さんと雄司さんの元にやって来ることが決まります。

この犬に一生寄り添っていくという覚悟

2週間のトライアルを経て正式に家族になったビビちゃん。実は里親会での名前はナナでしたが、“ビビり”のビビに改名。「あまりにもビビリだから笑いにしちゃおうって(笑)。足が床についてないんじゃないかと思うほどカタカタカタってずっと小刻みに震えてるんですもん。抱っこすると落ち着くんですけど、最初はなかなかさせてくれなかった」と麻世さん。「ケージに一度入ると出て来なくて、フードを点々と一粒ずつ置いて誘導してみたり。散歩に連れ出すときもそんな感じでしたね。食いしん坊で食への執着がなかったらもっと苦労してたんじゃないかな」と、受け入れ当初のビビの様子を振り返ります。

保護される前の環境の影響なのか、声を全く発しなかったというビビ。「先天性の病気を持っているのかなと思うほどでした」と雄司さん。「今後ずっとそうであっても家族として一生付き合っていくんだと改めて覚悟もしたくらい。今では「ワン」とちゃんと自己主張してくれます」。また両耳の間にギュッと固く刻まれたシワや、両足の内側に垂れて一向に上がる気配もないと思われたしっぽも半年、1年と一緒に暮らしていくうちに徐々に懐柔されていきます。ついに巻くようになったしっぽを見て「それはもう、うれしくて感動しました。2年くらいでやっと普通の犬になったって感じかな」。

散歩中に動かなくなることがあったときも「なんでだろう」「なんでかな」と夫婦でとことん相談したんだとか。ビビを見て犬の気持ちになってみたら「排水溝の溝の上が怖くて止まっちゃうんだ」と気づくことができ、抱っこして溝の上を通過することで、中断せずに散歩ができるように。「そうやって一つひとつクリアしたり、分かってあげられることがとにかくうれしかったですね。性格が正反対の夫婦だからこそ、2人で話し合うと別の見方や考え方ができるのでそれも良いんだと思います。保護犬だからというわけではないのかもしれませんが、苦労して心を通じ合えたからこそ、より深い絆を感じています」と話してくれました。

フードを並べてケージから誘導
迎え入れたばかりのころのビビちゃん

2匹目はビビのことを最優先に考えて次男出産前のタイミング

できるだけ多くの保護犬と共に暮らしたいという気持ちのある麻世さんですが、現状を考えると今はあと一匹かな…と思っていたところに2人目のお子さんを妊娠。「ビビがもう一匹の子と元気で一緒に遊べる年齢を考えると6~7歳。あまりおばあちゃんになってから小さい子が来たらかわいそうじゃないですか。となると、子どもが生まれて忙しくなる出産前に迎え入れるのがベストかなって」と何よりビビちゃんのことを第一に考える姿勢に深い愛情を感じます。

「ビビは子犬のほうが仲良くできるとわかっていたのでそういう小さい子がいたら…と、ビビと出会った里親会のときにお世話になった早川さんにお願いしました」。多頭飼いにおいて、犬同士の相性も大切な要素。現在は個人で保護犬の里親会などの活動をしている早川さん。保護犬の受け入れに際しての審査では、妊娠中でこれから家族が増える家庭は除外されることが多いそう。それでもそのタイミングで紹介してくれたのは「継続的にビビとの生活も見させていただいていたから、安心して任せられる」という理由があったことを後から教えてもらったそう。これも犬を通じて育まれた、人と人との信頼関係です。

そして茨城動物保護センターから保護された生後3カ月の4匹の兄弟犬に会うために早川さん宅へ。そこで長男が見染めたという子犬のノアくんが、5人目の家族となります。ノアは生まれてすぐに捨てられていたところを保護されたこともあり、ビビほどは人間に対して怯えやトラウマはなかったといいます。2匹の関係性を聞くと「ビビはお姉ちゃんでノアは年の離れた弟。ビビは面倒見がよくて、ノアがやって来た当時もやきもちを焼いたりしなかったんですよね。ノアは天真爛漫な小学生男子みたいな性格で、かまってちゃん。よくビビにしつこくちょっかい出して『ワン』って吠えられては『は~い、やめま~す』と思えるやり取りも多いんですよ」と仲睦まじいエピソードも。

犬も人も地球上にたくさんいる同じ動物

「地球上にたくさんの動物がいるのに、人間だけで暮らすのは不自然に感じる」という、動物愛が強い麻世さんならではの言葉にハッとさせられる場面も。「せっかく生きてるのに人間以外の動物とコミュニケーションをとらないなんてもったいなって。犬と通じ合えるとほかの動物との触れ合い方もなんとなくわかるというか。言語じゃないところの感覚が開かれていく…人間が本来もってるであろう第六感なのかなって思ったりもします」と麻世さん。「下の子2人はよくビビとノアの真似してるんですよ」。それもそのはず、次男と三男にとって、ビビとノアは生まれたときからずっと一緒のお姉さんとお兄さんです。四つん這いになって歩いたり、ぺろぺろと水を飲んだり、外で犬たちと一緒になって草を食べたり! 赤ちゃんや子どもが親や周りにいる大人を見て育つように、3人の息子くんたちも意識しないところでビビとノアからきっと多くのことを学んで吸収しているのかもしれませんね。

犬がいるおかげで生まれる新しい価値観

「たとえば犬のために“行ってあげている”という意識でいる散歩。でも実は犬の運動したいという価値観で自分たちが連れていってもらっている。そう考えてみると、人だけでなくて犬と暮らしているからこそのメリットになりますよね」。そう言われてみれば、犬を介して広がる交流って結構ありますよね。犬を飼っているご近所さんとのお付き合いもそのひとつ。元は犬と犬とが分け隔てなく親しくなるという価値観だからこそ、それに不随して飼い主たちの交流が生まれているのかもしれません。冷静で理論的な雄司さんならではのお話しに思わず深く頷いてしまいます。

動物愛護の精神から、できるだけ菜食主義の麻世さんですが、2匹の愛犬のために肉を調理してフードとして与えることに抵抗はないといいます。それは犬が肉食動物だから。犬と共存することで、人間本位の考えにとらわれず、いろんな立場も受け入れられるのだそう。「人の命のリズムだけじゃなくて犬のリズムにもなれる」とは、お二人だからこそ導き出せる価値観のように感じました。

「わが家の休日の過ごし方は、海、川、山に広場など、名前がついてないような場所へ出かけて自然の中でとことん遊ぶこと」。コロナ禍であっても、自宅周辺の公園や人混みのない自然豊かな場所で過ごす休日に変わりはないのだとか。

また、海で知り合った友人たちに誘われてヨットやカヌーの体験をするなど、新たな出会いや遊びを楽しんでいるようです。

我慢ではなく選択することが増えるということ

犬を飼いたいと思っても、動物を飼うと旅行に行けない、出かける場所も屋外に限られてくる、などのフレーズを耳にすることが多いのも現実。「ペットを飼うことでいろいろなことを”諦める”のではなくて、”選択肢が増える”と考えてみたら良いんじゃないかな」と雄司さん。「私がビビノアの面倒を見てあげている、で終わったらもったいなくて。ビビノアを大事にすることで自分たちの生活や命を大事にすることに繋がる気がする」と麻世さん。「犬も家族として尊重しているから、”何かを我慢する”というストレスはないかな。むしろ生活に彩りが増える。まさに、子どもが5人いるような」。そんな毎日を送っているみなさんはとても幸せそうです。

でも実際は、犬と人との寿命には差があります。「まだ2匹とも元気ですが、ビビやノアがいなくなることを想像して悲しくなることがあるんです。それで改めて今を大切に生きなれけば、と思います。まだ妻や息子たちと愛犬の死を経験したことがないので、動物にとって自然の死とは何なのかをこれから考えていくことになりますね」と雄司さん。一方の麻世さんは「もしビビノアの体力が落ちて今みたいに遊びに出かけられなくなるときが来たら、ちゃんと気付いてあげたいしビビノアの声を聞いてあげたい。手術や延命するかなどはそのときの様子をみないと決められないし、今はまだ考えたくない。でもそのときまでに知識を得た上でちゃんと選んであげたい」と。

「この先何が起こるか分からないですが、犬も人も家族みんなを幸せにしたい」と雄司さん。「最近になってやっと父親としての自覚が出てきたんですよ」と、冗談まじりに話す麻世さんもなんだかうれしそうに見えました。これからお子さんも成長して、今までとはかかわり方が変わっていくかもしれません。それでも、麻世さんと雄司さんの元にいる2匹の保護犬のビビとノアは、これからもずっと幸せであり続けることでしょう。

迎え入れたばかりの頃と比べて顔つきが全然違うビビ&ノアちゃん

さいごに

とっても元気で明るい麻世さんとのインタビューは、終始笑いながらの楽しい時間でした。そして、おっとりした口調でいながら、しっかりと自分の想いを語ってくださったご主人の雄司さん。2匹の保護犬のワンちゃんもお子さんたちも、本当に自由にのびのびとした毎日を送っています。

「言語を発しない犬と、言葉じゃない関係性を築けば世界が広がる」というお話に、わたし個人としても、愛犬の体温や鼓動を感じて癒されたり、元気をもらったり、感覚やアイコンタクトで交流しているんだなってことに気付きました。これから犬や保護犬を迎えようと考えている方に、今回の取材を通じて、犬と暮らす日常のイメージが少しでもお伝えできればと思います。

INUMAGではこれからも、犬と暮らすご家族のかかわりや、さまざまな犬と人とのライフストーリーをお届けしていきます。

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  • Writer:たかはし ゆか
  • Photographer:RYOTA OKAZAKI
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