映画『ハウ』田中圭さん演じる青年と犬の絆ストーリーを動物ライターがレビュー
- レビュー
田中圭さんと犬の共演シーンに癒やされると早くも話題の映画『ハウ』。このたびご縁があり先行試聴させていただき、『ハウ』を観て動物ライターとしての観点から感じた映画のレビュー記事をお届けします。
本作はメインテーマである”人と犬との絆”について、あらゆる角度から気付きを得られる映画です。これまでの人生を通して、5頭の犬と暮らしてきた経験や、愛玩動物飼養管理士の資格取得を通して必要だと感じた知識の共有も織り交ぜながらお伝えしていきます。すでに映画を観た人も、これから映画を観に行かれる人もぜひチェックしてみてください。
目次
2022年夏から絶賛上映中『ハウ』のあらすじ
ワン!と鳴けない犬と気弱な青年の2人の絆のストーリー。
人生をどん底に感じていた市役所勤務の男、赤西民夫34歳(田中圭)は、上司のすすめで保護犬”ハウ”との生活を始める。1人と1匹が一緒に暮らしていくうちに、民夫は家に帰るのが楽しみになるほど元気付けられていく。ペロペロと民夫の顔をなめまわして帰宅を歓迎するハウ。お互いにとってかけがえのない存在として、人と犬とが絆を深めていきます。
そんな中、ハウは思いがけず、民夫と離れてしまう。「もう一度民夫に会いたい」との想いを抱えてハウの日本縦断の旅が始まります。青森から横浜までの798キロを帰る道中、ハウは悲しみと孤独を抱えるあらゆる人々に寄り添い、いろんな名前を付けられながらもあらゆる場所で心の交流を通して人々を救っていきます。最後はいくつもの偶然が重なった奇跡が起き、優しい心でつながる驚きの展開で幕を閉じます。
突然いなくなるハウ。保護犬を迎える覚悟
映画序盤、民夫とハウが過ごす休日に、ひょんなことからハウが姿を消してしまう事件が発生します。これはとても衝撃的な展開で、犬を飼っている方が観たら信じられない出来事に感じられるかと思います。民夫の油断から生じた行為が原因ですが、その後もずっと後悔の念にかられます。
私も保護犬を引き取った経験があるので思い出すのですが、犬の管理に注意する充分な体制が保護犬を迎え入れる際には必要なことをボランティア団体から教えられました。保護犬を預かって間もない時期は特に、犬が逃げないよう環境を整えることが大切です。例えば玄関から飛び出さないようガードを置く、ダブルリードで散歩するなど。犬が再びセンターへ送り込まれるような悲しい思いを2度とさせないよう、命を守る心構えが大切です。
今回の映画でも、これから保護犬を家族に迎えようと考える方へ、出会った愛犬を生涯守り切れるようにとのメッセージにも思えました。
愛犬と人生をともに生きた飼い主が抱える「ペットロス」
ハウ を失ってしまいペットロスを抱えることになった田中さんは、映画の中でペットを飼ったことのない人から心ないセリフに怒る出来事があります。犬を家族として迎えている方々ならそのセリフに憤りや同じ悔しさで共感されるかもしれません。誰もが命ある生き物と過ごした後に避けては通れないペットロス。
いくら時間がたっても悲しみは消えないし、その子だからこその思い出は、たとえ同じ犬種の他の子でも満たされず、その子との思い出はずっと心に宝物として生きていると思います。そんなペットロスを抱える人々に優しい心が向けられるよう、犬を飼ったことのない人へ、少しでも分かってもらえるよう願いがこめられたシーンだったのではないでしょうか。
私自身も17年ともに過ごした犬のことは今もずっと心に生き続けており、命日の頃に咲く花に癒やされたり、家族と思い出話をしたりして忘れることはありません。1年経過してようやく次に飼った犬との13年間も新たなもう1人の家族として迎え入れ、決して代わりになり得るものは存在しないと考えています。どの子も笑わせてもらった楽しかった思い出を胸にその子たちに感謝の気持ちがあるから、今も動物と接点のある仕事に励んでいられると思います。
ペットを心から愛し失った悲しみを持った経験のある人たちにしか分かり合えない言葉やシーンの描写が映画後半の展開にも出てきます。”ペットロス”は動物想いの原作者の伝えたいことのテーマのひとつであり、ペットの喪失感に苦しむ人が”1人じゃない”と心救われる幕となればと感じました。
行く先々で出会う人々にあらゆる名前で愛されたハウ
映画の中で、ハウはあらゆる人々に出会います。どの人も悲しい表情をして孤独を抱えているところにハウが寄り添い、背中を押して去っていきます。女子高生や1人で傘屋を営む店主、修道院に駆け込んでいる女性など。
ハウのかわいい表情や動きから、犬のいちずで純粋な愛や温かさを感じ、そばに愛犬がいる人なら抱きしめたくなるほど愛おしくなるはずです。そして、温まるだけじゃなく、犬とともに生きる飼い主が持つべき責任について振り返るメッセージや、動物福祉における社会問題も改めて考えたくなるテーマが出てきますので、ぜひ多くの方に感じ取っていただきたいです。
出会う人それぞれに名前を付けてもらいかわいがってもらうハウ。最後には驚きの展開があり、憤りも感じましたが、どの人との関わり合いもハウの優しさと裏切らない心がうまく表現されています。ハウの演技力はその抜群のタイミングでの振る舞いといい、ふわふわな癒やし系の表情といい、犬好きなら誰もが感情を揺さぶられるのではないでしょうか。特に、犬は動物の中でも共感能力が高いとされる生き物だからこそ、ストーリーがリアルに感じられて、共演している俳優の方もみな、ハウに魅了されているのがよく分かる映画でした。
大型犬・ハウがもたらす圧倒的な包容力とは?
現在私は、小型犬を飼っておりかわいくて守りたくなる愛おしい存在に感じていますが、今回の映画でハウを見て、大型犬の包容力を思い出させてもらいました。
田中さん演じる民夫にハウが寄り添って座る後ろ姿は、同じ大きさの背中と座高でまるで恋人同士のような姿にほっこりと癒やされます。大人と同じくらい大きな大型犬は、まるで人間の家族が1人存在しているかのような包容力があります。私は過去にラブラドール・レトリバーを飼った経験もありますが、人間と同じほどの体格の犬がそばにただ座って体温を感じるだけで「何とかなるね。大丈夫だよね」となぜか安心できる包容力や心強さを感じた経験が多々ありました。
そして犬を飼ったことのない人も犬を家族に迎えたくなるような、ハウの大きな体で動作する表現力と愛あふれる田中さんとの熱い共演シーンを楽しめるかと思います。ハウが人々を元気付けてくれるシーンの数々は、役を越えたハウと俳優さんたちとの深い絆を感じて心が温まります。
「ずっと一緒だと思ってた」犬はずっと想っている、保護犬の人生に寄り添って
映画では、たびたび犬の純粋な感情や思いを受け取ることができます。たとえば、動物シェルターを持つ麗子(民夫の上司、史郎の妻・渡辺真起子)がスタッフとケージにいる保護犬達をみてつぶやくシーン。
「いろんなことがあったろうけど、目に恨みを持ってる子がいないのよね」
このセリフに、犬のけなげで純粋な愛を思い出しました。
離れ離れになったハウが民夫に会いたい一心で日本中を駆け巡るシーンでは「ずっと一緒だと思ってた」との言葉とともに走るハウに涙する愛犬家の方々も多いのではないでしょうか。
私が引き取った愛犬も家にきたばかりの頃は寂れた目をしていました。しかし、ともに過ごす時間が経過していくにつれて、散歩中のアイコンタクトが増えていったりおなかをなでると笑ったりしてくれて、優しいまなざしに変わっていった経験があります。
犬はどんなときも私たち人間への純粋な愛を忘れずに持ってくれていると感じます。ハウと民夫の共演シーンを観て真っすぐな気持ちで会いたいと願う、揺るがない信頼の絆を感じ、いっそう愛犬を大切に守ってあげたいと感じました。
さいごに
犬と人との愛情の絆を中心に映画の見どころをお伝えしましたが、この映画はあらゆる人と人との交流も興味深く見どころです。実際に会えなくてもSNSを通してお互いの犬を「かわいいね」と愛であい、ペットロスの悲しみを共感し合えるのは、今らしい犬友ネットワークの象徴ではないでしょうか。誰でも簡単にペットとの生活を眺めて楽しめる時代だからこそ、その先の命を迎える覚悟を持つことが大切なのだと映画では伝えているのでしょう。
人と動物の絆をテーマに、保護犬の生涯についての課題や愛情深い犬への感謝の気持ちなどを改めて確認し、今隣にいてくれる愛犬をますます大事にしたくなる映画でした。
INUMAG読者のみなさまも劇場で犬への新たな想いが沸き起こって愛情の絆が深まるかもしれません。ハウの熱演ぶりを応援の意味も込めて鑑賞してみてください。
<作品情報>
作品名 | 映画『ハウ』 |
公式サイト | Webサイト:https://haw-movie.com Instagram:https://www.instagram.com/haw_movie2022/ Twitter:https://twitter.com/haw_movie2022 |
公開日 | 2022年8月19日(金)公開 |
上映映画館 | 全国ロードショー https://toei-screeninginfo.azurewebsites.net/theaterlist/02695 |
出演 | 田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、前川佑、細川岳、田中要次、草村礼子、品川徹、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子、ベッグ(ハウ) |
原作 | 『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫) |
監督 | 犬童一心 |
脚本 | 斉藤ひろし 犬童一心 |
音楽 | 上野耕路 |
主題歌 | GReeeeN「味方」(ユニバーサル ミュージック) |
- Writer:今崎 湘子